良かれと思っているのに

かつての話ですが。
とある中学二年生の男子生徒に、

「因数分解」の課題を与えました。


因数分解は、本来、中学三年生の履修範囲です。

それをさせているのですから、
これは勿論、「先取り」です。

ですが、そもそも因数分解というのは、
パズルのようなもの。

原理は非常に簡単で。

早い遅いの違いはありますが、
ほぼ全ての生徒が、マスターはします。


しかもその生徒は、十分に優秀でしたので。

ほとんど説明もしないまま、
「この辺りの解説を読んでやって来い」と指示しておいたのでした。

自分の経験上、
まず間違いなく、
その生徒は因数分解をマスター出来るだろうと確信して。



ところが。

その翌日、塾に電話が来ます。


「うちの子が、教わった内容を理解していないようなので、
もっとちゃんと指導してくれないか」


というもの。

勿論、因数分解をさせた件の生徒の、母親です。


その電話を私が直接受けた訳ではなく、
伝言として聞いただけでしたので、

どれほどの主張であるのか。

気楽な注文か、いわゆるクレームレベルなのか、
分かりませんでしたが。


まあ、放っておいても、どうせマスターするのだから、と、
それ程気にせず、
放置していました。


そして、実際。

翌週の授業の際には、
その生徒は、因数分解の基礎をきっちりこなしていて。

ほら、やっぱり心配なんていらなかっただろう、
私が説明などしなくても、自分でマスター出来ただろうと、
私は勝ち誇った気分でいました。


ところが。

それからしばらく経って。



その裏で、実際にあったことを知るのです。



実は。

子供が、因数分解に苦労をしているのを見かねた、
その母親は。

家庭教師を、子供につけていたのです。




愕然としました。



何と無意味なことをするのだ、と。

子供が自力で壁を越えるための、せっかくの機会を、
大人が奪うなんて、と。


そして、ひどく腹が立ちました。


子供のことを思って家庭教師を呼んだ、母親に対してではなく。
仕事をこなしただけの、家庭教師に対してでもなく。
勿論、子供本人に対してでもなく。



ただただ、
電話をかけてきた保護者に対し、
「自分一人でやらせなければならないことがある」ことを、
しっかり説明しなかった、自分自身に対して。





とは言っても。

それは非常に難しいことであるのは事実です。



「自分一人でできない」からこそ、塾に入れているからで。

塾としても、その「自力で出来ない」部分を、出来るだけサポートしたい。

そんな中で、
「でもこの部分までは自力でやるべき」
「そこはサポートしない方がいい」などと、
一々断りを入れ、理解してもらっていくのは、
実際問題、不可能なのです。



ただ、それでも。

ごくごく一部の私立学校の受験対策を除けば、
小中学の勉強は、そのほとんどが「自力で出来る」範囲内であるのは確か。


塾の役割は、そのほとんどが、
「自力で出来るよう励ます」ことであるべきであり、

決して、
「自力で出来ること・やるべきことを、(お金を貰って)わざわざ教える」ことではありません。

そう思って指導を続けてしまうことが多くあるため、
「教えてくれない」という苦情を受けること、
そして「家庭教師を呼ぶ」という判断、
果てには「塾をやめる」という決断を下されてしまう、


そういう目に遭うことは、少なくありません。




しかも。

私が、「それは間違っている」と思ったことをした、
つまり、ここで家庭教師をつけられた生徒は。



その後、非常な難関校に合格しました。


もともと中2で中3内容をさせていた生徒です。

率直に言って、
家庭教師なんていなくても、なんの問題もなく合格できたでしょう。

下手すれば、塾になど行かなくても合格できた。

優秀な生徒とは、そういうものです。




ですが。

家庭も本人も、家庭教師も、そうは判断しない。


子供のピンチの時に家庭教師を呼ぶという、
適切な対処のお陰。

わからないことを教えてくれた家庭教師のお陰。

そして、わからないことを自分がきっちり教えたお陰。


その結果合格できた、と皆思ってしまう。



だから、私の、「家庭教師などいらない」という主張は、
誰の耳にも届かない。


そうして、この悪い流れが続く。


それでも。


優秀な生徒は、まだいいのです。

上記のように、どんな指導を受けようが、伸びますから。

お金が無駄にはなりますが、まあそれは仕方がない。




もっとも迷惑を被るのは、
優秀になるには、一歩足りない生徒。




「自力で考え抜く」習慣を、
今から身につけなければならない段階の生徒。


こういう生徒が、少しでも躓くと。


上記の生徒の例に倣い、
それを「成功例」と信じ込み、

家庭も生徒も、
塾や家庭教師などを頼ってしまう。

塾や家庭教師も、
丁寧に教えることが大事だと信じ込み、
非常に易しいことまで、丹念に説明してしまう。



そうして子供達は、「自分で考え抜く」を身につけることなく、
当然伸び悩み。

伸び悩んでいるのを見て、家庭は、
また新たな家庭教師をつける。


お陰で、こういう生徒はますます依存心が強くなる。


親も、家庭教師も、皆、良かれと思ってやっていることで。

子供はダメになっていっているとしたら、

悲しいことですね。












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