「肉を食うパンダ」に育てる

私が台湾に来て、生徒を指導し始めて最初に驚いたのが、
生徒の素晴らしい勉強量について、でした。

特に中学三年生は、
夏期講習期間など、
朝から晩まで、文句も言わずずっと勉強しています。

しかも、十分に頭のいい生徒達。

これは凄いなぁ、とただ感心しました。



ところが。
春になって、また驚きました。

彼らの合格実績が、それほど良くはないのです。

いや、もちろん。
世間一般的には、
素晴らしい学校ばかりに合格しています。



しかし。
早稲田慶応が滑り止めでしかない、
そんな学校に通っていた私から見て。

その母校にいた生徒たちに、
遜色ないレベルの賢い生徒達が、
その母校の生徒達よりも、
ずっとずっと長時間勉強したのに。

この程度なのか、と思ってしまうのです。



ただ。

春になる頃にはもう、
そうなってしまう原因が、
推察はついてしまっていました。



恐ろしく、勉強のクオリティが低いのです。
無駄なことばかりをやっています。

というよりも、
塾にやらされています。

それが正しい勉強法だと信じ込んでいる講師達に、
指示されるままに。

これでは、なかなか伸びないどころか、
むしろ成長が阻害されてしまう。


しかも、小中学生としてやっておくべき、
勉強以外の様々な貴重な経験も、
ほとんどできないまま。

余りに虚しい日々を過ごしています。


この環境下で、
塾漬けにされながら良い学校に合格する生徒達は、
相当な勉強をしてきた、
相当な努力家でしょう。


でも。
小・中学生のうちにしか出来ないような、
しかも海外在住にしか出来ないような、
貴重な体験を色々し損ねる、
可哀想な生徒達です。


それは人生経験に関する話だけではありません。
学力的にも、彼らは可哀想なのです。


中高一貫校が大学受験で強いのは、
高校受験勉強をしなくていい生徒達が、
その時間に貴重な体験を積み、
色々物事を深く考えられるようになったからなのです。


高校生以上はともかく、
中学生以下が勉強漬けになると、
その時は猛勉強でどうにかなっても、
「深く考える」という習慣が身につかず、
いずれ伸び悩むのです。



パンダだ、と私は思いました。





パンダは本来、熊の仲間です。
当然、肉食獣です。

ですが、古代において、
生存競争に敗れ、
獲物になるような生物のいないような、
深い山の中に住処を構えざるを得なくなりました。

そして、食餌に窮した彼らは、
笹の葉を食べるようになりました。

しかし勿論、彼らの内臓は、
肉を消化吸収するように作られています。
笹から得られる栄養分はほんの僅か。

だからパンダは、
その巨体に栄養分を行き渡らせるために、
朝から晩まで笹の葉を食べ続けなければならなくなった。

しかも。
そこまで頑張っても、結局、パンダは絶滅しかけてきる。



朝から晩まで、
ひたすらに効率の悪い勉強をしている生徒達を見ると、
そんなパンダの話を思い出したのです。


パンダは絶滅しかけてる。

こんな子供達も、いずれダメになる。


そこで、私は自分の塾を作りました。

効率の良い勉強をさせ、
効率良く伸びてもらおうと思いました。

そして実際、最初の何人かの生徒は、
一気に伸びて、それほどの勉強量でないのに、
素晴らしい学校に合格しました。

手応えを感じた私は、
この後もこの感じで伸ばして行ける、と確信しました。



ですが。


残念ながら、その後は、
ほとんど成功しませんでした。


原因は明らかでした。


私の思う、効率良い勉強法。

その殆どを、多くの生徒が、
受け付けてくれないのです。


目の前で指示している瞬間は聞きますが、
目の前から離れると、
すぐにそんな指示を忘れ去ってしまう。


どれだけ教え方を工夫しようが、
どれだけ時間を取り、熱意を込めて指示しようが、
砂上の楼閣のようなもの、
授業終了という「波」によって、
全て洗い流されてしまうのです。



何年も同じような虚しい作業を繰り返した挙句、
仕方ないよな、と私はようやく諦めました。

彼らは、効率の悪い勉強を植え付けられてしまっている。

そして今現在も、
そんな勉強しか教えてくれない、
そんな勉強しか知らない指導者に取り囲まれている。

私一人がどれだけ騒ぎ立てようが、
もう今更、変えられない。

無論、ごく僅かであっても、中には、
私の指示を次々と吸収し、
どんどん伸びていった生徒はいます。

ですが、そういう生徒にしても、
「他の先生達と全く違うので、
最初はすごく戸惑った」
と語ります。




思えば。

本来肉食獣だからと言って、
パンダに肉を与えたところで、
笹の葉を食べて育ったパンダは、
今更それを口にはしないでしょう。

私は、諦めることにしました。






とはいえ。

パンダはやがて絶滅するでしょう。
少なくとも、野生のパンダは絶滅寸前です。


ただ。
飼育環境下では、パンダは生き延びています。

しかも、
なんとその中には、ちゃんと肉を食うパンダもいるのです。


幼い頃からちゃんと意志を持って育てれば、
周囲のパンダが笹を食べていようが、
肉を食うパンダは出てくるのです。





効率の良い勉強をし、
貴重な体験も積める生徒に、
絶滅して欲しくはありません。

与えられる、
栄養価の低い笹ばかり食べるパンダではなく。


肉を食べるパンダに育てて欲しい。

そう、切に願っています。













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