生徒の素晴らしい勉強量について、でした。
特に中学三年生は、
夏期講習期間など、
朝から晩まで、文句も言わずずっと勉強しています。
しかも、十分に頭のいい生徒達。
これは凄いなぁ、とただ感心しました。
ところが。
春になって、また驚きました。
彼らの合格実績が、それほど良くはないのです。
いや、もちろん。
世間一般的には、
素晴らしい学校ばかりに合格しています。
しかし。
早稲田慶応が滑り止めでしかない、
そんな学校に通っていた私から見て。
その母校にいた生徒たちに、
遜色ないレベルの賢い生徒達が、
その母校の生徒達よりも、
ずっとずっと長時間勉強したのに。
この程度なのか、と思ってしまうのです。
ただ。
春になる頃にはもう、
そうなってしまう原因が、
推察はついてしまっていました。
恐ろしく、勉強のクオリティが低いのです。
無駄なことばかりをやっています。
というよりも、
塾にやらされています。
それが正しい勉強法だと信じ込んでいる講師達に、
指示されるままに。
これでは、なかなか伸びないどころか、
むしろ成長が阻害されてしまう。
しかも、小中学生としてやっておくべき、
勉強以外の様々な貴重な経験も、
ほとんどできないまま。
余りに虚しい日々を過ごしています。
この環境下で、
塾漬けにされながら良い学校に合格する生徒達は、
相当な勉強をしてきた、
相当な努力家でしょう。
でも。
小・中学生のうちにしか出来ないような、
しかも海外在住にしか出来ないような、
貴重な体験を色々し損ねる、
可哀想な生徒達です。
それは人生経験に関する話だけではありません。
学力的にも、彼らは可哀想なのです。
中高一貫校が大学受験で強いのは、
高校受験勉強をしなくていい生徒達が、
その時間に貴重な体験を積み、
色々物事を深く考えられるようになったからなのです。
高校生以上はともかく、
中学生以下が勉強漬けになると、
その時は猛勉強でどうにかなっても、
「深く考える」という習慣が身につかず、
いずれ伸び悩むのです。
パンダだ、と私は思いました。
パンダは本来、熊の仲間です。
当然、肉食獣です。
ですが、古代において、
生存競争に敗れ、
獲物になるような生物のいないような、
深い山の中に住処を構えざるを得なくなりました。
そして、食餌に窮した彼らは、
笹の葉を食べるようになりました。
しかし勿論、彼らの内臓は、
肉を消化吸収するように作られています。
笹から得られる栄養分はほんの僅か。
だからパンダは、
その巨体に栄養分を行き渡らせるために、
朝から晩まで笹の葉を食べ続けなければならなくなった。
しかも。
そこまで頑張っても、結局、パンダは絶滅しかけてきる。
朝から晩まで、
ひたすらに効率の悪い勉強をしている生徒達を見ると、
そんなパンダの話を思い出したのです。
パンダは絶滅しかけてる。
こんな子供達も、いずれダメになる。
そこで、私は自分の塾を作りました。
効率の良い勉強をさせ、
効率良く伸びてもらおうと思いました。
そして実際、最初の何人かの生徒は、
一気に伸びて、それほどの勉強量でないのに、
素晴らしい学校に合格しました。
手応えを感じた私は、
この後もこの感じで伸ばして行ける、と確信しました。
ですが。
残念ながら、その後は、
ほとんど成功しませんでした。
原因は明らかでした。
私の思う、効率良い勉強法。
その殆どを、多くの生徒が、
受け付けてくれないのです。
目の前で指示している瞬間は聞きますが、
目の前から離れると、
すぐにそんな指示を忘れ去ってしまう。
どれだけ教え方を工夫しようが、
どれだけ時間を取り、熱意を込めて指示しようが、
砂上の楼閣のようなもの、
授業終了という「波」によって、
全て洗い流されてしまうのです。
何年も同じような虚しい作業を繰り返した挙句、
仕方ないよな、と私はようやく諦めました。
彼らは、効率の悪い勉強を植え付けられてしまっている。
そして今現在も、
そんな勉強しか教えてくれない、
そんな勉強しか知らない指導者に取り囲まれている。
私一人がどれだけ騒ぎ立てようが、
もう今更、変えられない。
無論、ごく僅かであっても、中には、
私の指示を次々と吸収し、
どんどん伸びていった生徒はいます。
ですが、そういう生徒にしても、
「他の先生達と全く違うので、
最初はすごく戸惑った」
と語ります。
思えば。
本来肉食獣だからと言って、
パンダに肉を与えたところで、
笹の葉を食べて育ったパンダは、
今更それを口にはしないでしょう。
私は、諦めることにしました。
とはいえ。
パンダはやがて絶滅するでしょう。
少なくとも、野生のパンダは絶滅寸前です。
ただ。
飼育環境下では、パンダは生き延びています。
しかも、
なんとその中には、ちゃんと肉を食うパンダもいるのです。
幼い頃からちゃんと意志を持って育てれば、
周囲のパンダが笹を食べていようが、
肉を食うパンダは出てくるのです。
効率の良い勉強をし、
貴重な体験も積める生徒に、
絶滅して欲しくはありません。
与えられる、
栄養価の低い笹ばかり食べるパンダではなく。
肉を食べるパンダに育てて欲しい。
そう、切に願っています。
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